え・・・5000円!?
とあるリサイクルショップ。ガラスレザーの靴たちの横に雑然と並べられた一足。
我が目を疑いました。
免許更新の講習時間を間違えて出来た空き時間。暇つぶしに入っただけだったんですが・・・
古靴の王様、フローシャイムです。
このシワの入り方…
くすんではいるものの、独特なこの艶。
間違いなく「コードバン」です。
革のダイヤモンドとも称される馬の臀部の革。
それを使用した老舗高級ブランド、フローシャイムのロングウィングチップ。
普通に買えば数万円はくだらないかと。
マイサイズより1インチ大きいものの、この値段を放っておくことはできずお持ち帰りすることにしました。
ずっとやりたかった「コードバン」の丸洗いですが、ついにその時がやってきたんです!
…と、テンション爆上がりだったこの日、今の沈んだ私は想像もしていませんでした。
「経験を共有する」というのが当ブログのモットーです。失敗も誰かの役に立つかもしれない。そう思わなくてはやってられない本日のエントリーです。
状態は悪くないけど…
ビンテージ界隈で名をはせる古靴の王様フローシャイム。
かつてはAlden=大衆靴で、アメリカの高級紳士靴と言えばフローシャイムだったとか。
そんなわけで60~80年代の生産されたペアは非常にクオリティが高く、今でも高い人気を誇ります。
インソールのロゴからこのペアは比較的新しいことが分かります。
90年~00年代でしょうか?
ビンテージ的な価値は無さそうですが、生産から日が浅い方が革の状態も良いでしょうし、全然OKです。
結構強めに履き癖がついていますが、見た目に分かるクラックは無さそうですね。
靴紐のダメージは交換すれば問題ないですし、悪くない状態です。
トップラインに多少ヒビが見えますが、最悪ここだけ補修してもいいですし、問題無しかと。
これだけ状態が良いのにこの値段。
それにはやっぱり理由もあるようで…
臭い。
異常に臭い。
中古靴特有の革の匂いに混じるサラリーマンの足臭。他界した父親を思い出す強烈さです。これは何とかしないと。
もう一つ問題を発見
さっそくジャブジャブ洗おうかと靴紐を解くと…
カビ!??
軽く触っても取れそうにないのでブルームではなさそう。
しばらく放置されていたんでしょうね。臭いの原因にもなっているのかもしれません。
このまま水に浸けるとカビ菌が全体に行き渡るだけなので…
「Mモウブレイ モールドクリーナー」
先にしっかり殺菌、防カビ対策をしてしまいます。
スプレーを直接吹きかけてウエスで拭き取っていくと…
ここまで綺麗になりました。
念のため臭いのひどい靴の内部にも吹きかけて、準備完了です。
いよいよその時が…背徳のコードバン丸洗い!
クリームやワックスが残っていると水を弾いてうまく洗えない場合がありますので、丸洗い前にクリーナーで拭き取っておきます。
「Mモウブレイ ステインリムーバー」
予想通りというか、見た目通りウエスにはほぼ色移り無し。前オーナーはクリームすら塗っていなかったのかもしれませんね。
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で。
うおりゃーーーー
元来、水に弱いと言われるコードバンですが、これでもかとシャワーでビチャビチャにしてやる私。
「はははっ!どうだ!最高だろ!!」
私の中のS心がどんどん元気になってきました。
しっかり全体を濡らした後は軽く予洗いをしておきます。使用しているのはいつもの「レクソル レザークリーナー」。
今回はちょっと臭いが強いので、半日ぐらい漬け置きしておこうと思います。
乾燥工程へ…悲劇は突然に
次の日の朝。
漬け置きした水がとんでもない色になっていますが、ほとんどは染料が溶け出たものかと。
まぁいつもの事なので特に気にせず、シャワーを使ってとにかく濯ぎます。
さて、水を吸いまくってファットになったコードバン。色味もバーガンディというより黒に近いですね。
懸念していた足臭ですが…完全には無くなってないかな。いやむしろ、
全然残っています。
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う~ん。どうしよっかなぁ。
…
吸い込んだ水を完全に絞り切れば改善されるかも…!
そんな悪魔のささやきに耳を貸したことで、当ブログ最大の悲劇は幕を開けます。
革内部の水を懸命に吸い出そうとしますが、タオルドライではらちが明きません。
それならいっそ…
最終兵器、「洗濯機」
タオルで片足ずつ包んで、さらにバスタオルで隙間を埋めます。洗濯層で暴れないよう両端にセッティング。回し始めて変な音がすれば即ストップできるよう横にスタンバイ。
完璧な準備です。
…いざ、スタート!!
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何の音もしない。スムーズに回っているぞ。
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ぴー、ぴー、ぴー(洗濯終了の電子音)
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(どーなった?!)
がばっ
おぉ!
タオルに包まれた靴たちにほぼ動きなし。
あー良かった。これは成功でしょう。
タオルをとって中身を確認。
思っていたよりも形は崩れていますが、これはこの後の乾燥工程で何とでもなります。
いやぁ乾かすの楽しみだなぁ・・・
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・
(。´・ω・)ん?
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・
Noooooooooooぉぉぉおおおお!!
うそうそうそ…まじか?
洗濯機の中で動いた形跡無かったのに…
ネットでは成功している人もいっぱいいるのに…
いや、諦めたらそこで試合終了だ!
オイルを入れて、アドベースで埋めて、さらにワックスで全体を…
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いやこれ
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・
無理ぃぃいいいい!!!
あ—-っっ!!!!!
失敗の原因は・・・?
時間を戻す方法を真剣に考えたり、実は裂けてないんじゃないかと何回も確認してみたり…
1時間ほど右往左往してようやく向き合う気持ちになってきました。
…どうしてアッパーの革は裂けてしまったのか。
いや、洗濯機で回したからやん。
ま、そりゃそうなんですけど、同じ方法でも問題なく成功した方も多く、今回のケースとどう違うんだろうということ。
1.革の状態が良くなかった
これは大いに関係してそうです。
油分が少なく柔軟性を失った革は、クラックが起こる可能性は断然高くなります。ビンテージ界隈の方ならかなり気にされていることでしょう。今回のフローシャイムもいわゆるビンテージ靴ではないにしろ、製造からは20年以上経っていると思われます。それを大したケアもしないまま丸洗いですからね。さらに油分が抜けてヨワヨワ状態だったということでしょうか。
2.革の性質は?
最初に頭をよぎった「繊細なコードバンだからかっ!!」というのは見当違いのようです。
そもそもコードバンは牛革よりも強い革なんです。引張りや押し込みへの耐久性は牛革の3倍ともいわれるほど。
ただし、これは適切な管理をされた状態であって、牛革でもコードバンでもやはり含有する油分量こそが大切なんでしょうね。
でも、ビンテージのコードバンでクラックが無い方が珍しいのは何故なのでしょうか?コードバンは油分が抜けやすいのか??これはもう少し調べる必要がありそうです。
3.固定方法が甘かった
これも大いに反省するところです…泣。
たとえ遠心力で水気を切る洗濯機でも、革が移動する隙間もなければ裂けようがないはず。
そう考えれば、もっとタオルをパンパンに詰めていたら結果は違っていたかも。
色々反省点はあるんですが、コードバンの丸洗い、傷心の私にリベンジの日が来るとは思えません…
まとめ
どうも。秋空の下、絶望しているおっさんです。
もうね、革靴の丸洗いは何回も経験して、たぶん調子に乗ってたんでしょうね。緊張感もなく仕事が雑になってたんです。
やっぱり人間、謙虚な姿勢が一番です。
この記事で得られた事はただ一つ。
「革靴の脱水に洗濯機は使用してはいけない。絶対に」
皆様、この失敗を頭の片隅に置いて、是非私の屍を乗り越えて行ってください…泣
このフローシャイムはせっかくなので最後まで乾燥させて実験用にする予定です。
それではまた。